七夏に何が起きたのか

 id:amagamiさんの真摯な感想を読んで、自分のふしだらさ(アニメ感想を中心に書いているにも拘らず)に呆れてしまった。自分の視点を持てずにだらだらと流していてはいかん。最終回を迎える前に、観返してみる必要があるんじゃないか、と思い至った。かといって同じような視聴態度で観返しても何の意味はない。この気持ちの悪さ、不快さの原因を突き止めねばならない。そのためには新たな目が必要となる。
 このアニメの主人公は兄・耕四郎である。彼のモノローグを中心に物語は進行する。結果、耕四郎の心理が画面に浮き彫りとなり、視聴者には「解りやすい」キャラとして捉えられる。*1では、七夏。耕四郎の実妹であり、ヒロインである七夏の心理はどうだ。なかなか伝わってこない。彼女が何故兄に恋をし、結ばれることを望んだのか。その経緯は充分に描かれていたのか?耕四郎が(視聴者に対し)ベラベラ語るから、彼を中心に物語を見すぎていたのかもしれない。これは恋愛ものなのだから、「彼」の心理があれば「彼女」の心理もある。(意図的かどうかは別として)描かれていないのか見落としているのか確認しなければ、彼と彼女の物語全体を見誤る結果になる。耕四郎を中心とした物語には没頭してきた。見落としはかなりあると思われるが、七夏のそれに比べればたいした量ではない。なにしろ、私は七夏には「妹ヒロイン」以外の特性を見出せていないのだから、これでは穴だらけということになる。耕四郎の偶像崇拝ならそれでも問題は無いのかもしれない。しかし、七夏は*2実際に居る。生きている。耕四郎と結ばれるのだ。耕四郎が願ったことでもあり、七夏が願った結果でもある。なら、彼女の人格をないがしろにしてはならない。 前フリが長くなったが、以上の点を踏まえて、七夏による「恋風」を見ていこうと思う。最終回を迎える前に、姿勢を正して二度目の恋路へ。

  • OP

耕四郎のアルバムは両親が別れるまで、耕四郎が中学生の頃までしかファイルされていないようだ。このアルバムから七夏は兄の姿をイメージしていたわけだ。この頃の耕四郎はそこそこの見栄えで、七夏は格好良い大人に成長したおにいちゃんを思い描いていたのではないだろうか。

  • 第1話〜第3話
    • 七夏と桜と耕四郎


びっくりしたな、桜。私、失恋してから下ばっかり見てたから気付かなくて。今朝、駅のホームで声掛けられた時に初めて気付いたんです。ほんとにびっくりしたなあ。まるで花びらが雪みたいに降ってきて、一瞬、自分がどこにいるのか分らなくなっちゃった。

 観覧車での七夏の言葉。この時は耕四郎が兄だとは知らず、また、特別な感情も抱いていない。一度目の出会いでは、桜に目を奪われ、目の前の耕四郎の姿さえほとんど印象に残っていなかったのだろう。しかし、二度目の出会いで、七夏は耕四郎に自分から話しかけている。この時も桜が舞っていた。耕四郎のことは駅のホームでの桜から想起されたものと思われる。この時点でも彼に何も特別な感情を抱いていないのは七夏のそっけない口振りから伺える。まるで近所のおじさんに話しかけるような気安さだ。また、第2話でも桜による出会いの演出が繰り返される。

あの時、何故お兄ちゃんが泣いたか分らないけど、そのおかげで私は泣かずに済んだ。好きだった人のことを思い出しても大丈夫になった。なのに、……どうしてこうなっちゃうんだろうね。

 耕四郎にお兄ちゃんお兄ちゃんと執拗に懐いた結果、冷たくあしらわれ、思い悩む七夏。突然桜吹雪が舞い、夜空に目をやるとそこには満開の桜が。風に誘われるように現れる耕四郎。まるで七夏が望んだかのように耕四郎は桜とともにやってくる。冷たくぶっきらぼうだが、いざというときに頼りになるお兄ちゃん。七夏はこれを絆と感じただろう。もちろん、兄妹の、だ。

    • 大人の恋

 友人の双葉がとある男子に一目惚れする。だが、その男子と、同じく友人の環が公園でキスするところを目撃してしまう。七夏が知らない大人の恋だ。次の日、七夏は3ヶ月ぶりの生理痛に落ち込み気味。兄としてどう対応していいのかとまどう耕四郎に、「お兄ちゃん、心配しすぎ」と笑う。少し落ち着いたのか、七夏は今日の出来事を兄に告げる。


今日ね、友達が男の子とキスするの見ちゃった。私もいつか、誰かとキスするのかなあ。

 さらに翌日、教室での七夏モノローグ。

ゆうべは変なこと言っちゃったなあ。お兄ちゃんはキスぐらい馴れっこなんだろうなあ。大人だもんね。私はいつ、大人になるんだろう。

 失恋から立ち直った七夏は、友人のキスシーンに触発されてか、大人の恋に思いを馳せるようになる。恐らくまともに男の子と付き合ったことのない七夏には、環は対岸の人のように映ったことだろう。そして大人である兄も遠い存在のように感じ始めたのかもしれない。しかし突然の雨の日、駅の入り口で七夏を待つ耕四郎の後姿を目撃する。時計を見たり落ち着きのない兄。思わず硬直してしまう七夏。背景がホワイトアウト。鞄に忍ばせていた傘を隠し、兄に近付く七夏。遠い存在のように思えた兄はこんなに近くにいる。七夏は終始にやけっぱなし。この時の七夏に、耕四郎はどのように映ったのか。自分が置いてきぼりにされたような気分を(勝手に)抱き、寂しさを覚えた矢先の兄の優しさは身に染みるものだったろう。兄に親近感を抱き、さらに懐くようになる。軒先で所在なさげな頼りない兄もまた大人の恋とは無縁の人のように映ったのかもしれない。つまり、「仲間意識」が芽生えたのだ。

  • 第4話〜第5話 
    • 冷たい兄

 街を歩く二人。仲の良い兄妹のようにみえる。子供が風船を手放すのが目に入って駆け寄る七夏だが手が届かない。しかし、耕四郎はたやすく風船を捕らえる。その姿に「かっこいいお兄ちゃん」をみる七夏。が、元恋人に七夏とのツーショットを見られて、耕四郎は動揺、映画が終わると七夏一人を家に帰す。それからの耕四郎は以前に増して七夏に冷たい。耕四郎が七夏に後ろめたい行為を影でしてしまったせいなのだが、そんなことは七夏の知る由ではない。友人からは「七夏の誕生日が明日だから必要以上に感じ悪くして好感度上げようという作戦なのでは」と告げられ、ちょっと浮かれる七夏だが、耕四郎はさらに冷たくなる。誕生日当日、耕四郎が誕生日を忘れていたことを告白したとたん、七夏の機嫌は直る。七夏にも「兄の下着姿を見てしまった」という(故意ではないが)負い目があり、そのせいで兄の機嫌が悪かったのだと解釈する。耕四郎が自責の念に駆られる一方、七夏は七夏で浮いたり沈んだりしている。この辺りで示されるのは七夏の単純さと影響の受けやすさ。風船を取ったくらいで兄を尊敬し、友人に持ち上げられその気になり、兄に罵られ落ち込む。他人の言うことを真に受ける七夏の思い込みの激しさは後々まで続くことになる。

  • 第6話〜第7話
    • 転機


私は、えばってたりいじわるだったりするお兄ちゃんと少しでも仲良くなろうとしているのに。そんなお兄ちゃんにも少しはいいところがあることに気付いてきたのに。けど、おにいちゃんの方は相変わらず無愛想だったり。

 第6話、文化祭の準備。段ボールを抱えながらの七夏のモノローグ。相変わらずの兄に内心毒づく七夏であったが、仲良くなろうとする努力は放棄していない。この頃の七夏は兄に好かれようと必死だが、もちろんそれは兄妹としてであって、恋愛感情には至っていない。だが、意識しすぎのきらいはある。そして。
 同級生の男子・宮内に家まで送ってもらう七夏を見て耕四郎激怒、「付き合うとか百年早い」との説教の流れでつい「お前はかわいいから」と漏らしてしまう耕四郎。この一言で七夏は動揺、この辺りから耕四郎を異性として意識し始めたものと思われる。その後、耕四郎の熊の人形と一緒に布団に入ったり、満員電車で密着して顔を赤らめたりと、それまでとは違う七夏が描かれ始める。さらに第7話冒頭、

なんで、なんであんなに顔が熱くなったんだろう。何であんなに胸がどきどきしたんだろう。顔、熱い。変なの。

 と、自分の心情の変化にとまどう七夏の心情が描かれている。
 宮内経由で浅野なる男子からラブレターを貰い、どうしたらいいか分からない七夏は耕四郎に相談するも、冷たくあしらわれる。「ウマが合うようなら付き合えばいいんじゃねえの」との耕四郎のセリフの後に続く七夏の「いいの?」は「保護者として認めてくれるの?」という意味であろうが、「お兄ちゃんはそれでいいの?」という意味合いも多少は含まれているようにも聴こえなくもない。結局浅野には付き合えない旨を伝える七夏だが、「好きにしろ」という耕四郎の言葉が自分を突き放しているように聴こえて、思わず涙をこぼしてしまう。七夏の想いがもうすでに兄妹としての好意を超えているのが分かる。そして7話ラストの

私、お兄ちゃんが好き。

 に繋がるわけだ。

  • 第8話〜第11話
    • 一途

 そうなると七夏の想いはひとつだ。しかし、迷いが無いわけではない。


こんなかわいくない妹なんか、お兄ちゃんだって嫌だよね。

 自分の気持ちに迷いはない。が、兄にどう思われるかが気懸かりだ。

おかしいなんて、そんなことわかってる。ちょっと、調子に乗ってた。「私のことどう思ってる?」なんて図々しいこと聞かなきゃよかった。

 兄との接し方が分からなくなった七夏は双葉の家に。双葉の姉は結婚前で、マリッジブルー気味。相手の人が好きだから結婚するんじゃないんですか?との七夏の問いに、もちろんそうだと肯定したあと、「でも好きなだけじゃやっていけないというか、現実的なこととか色々あるし。やっぱ考えちゃうんだよねえ、本当にこれでいいのか、とか」と愚痴をこぼす。これが逆効果だったのかどうかはわからないが、耕四郎との電話の後、七夏は泊まらずに家に帰ってくる。しかし耕四郎はすでに一人暮らしの決意を固めており、明日引っ越すという。そこで七夏は耕四郎の部屋を訪れ、

一緒に寝てもいい?一緒にいたい、今日ぐらいは。


 と想いの丈をぶつける。耕四郎は兄妹だからおかしくはない、としながらも、もう会うのはよそうと絶縁宣言。それから一ヶ月、兄の言葉には従うものの、会いたくて仕方のない七夏は会社の前まで足を運んでしまう。手編みのセーターを編むのも止めない。しかしやはり想いだけでは足りず、ついに耕四郎の部屋まで行ってしまう。一度目は会えなかったものの、二度目では耕四郎と再会できた。しかし耕四郎が夕飯の買い物に出かけた合間に、千鳥が来訪。自分は耕四郎の恋人だと偽る千鳥だが、

私、負けません。お兄ちゃんを想う気持ちは誰にも負けません。


 と、千鳥を追い払う。ここまで言わせるまでに七夏を思いつめてしまったのは、突き放しきれなかった耕四郎のせいであろう。一人暮らしという逃避の前にきっちりけじめはつけるべきだったのだ。しかし、そうしたところで果たして、七夏は思い留まれたのだろうか。

きっと生涯想い続ける。そう信じられる恋だってあります。


 千鳥は甘いと言い返すが、結局は退散した。この言葉、そしてあの目は、ただ単に追い詰められたから成し得た言動だったのだろうか。結論は今夜出される。

  • 長々と書いたが

 こうして整理したおかげで、最終回への心準備は出来た。七夏は七夏で考えていたし、お飾りのヒロインではないことが理解できた。耕四郎の思い通りに動く、都合のいい妹ではない。彼女なりに考えている。それが理解できただけでも二度目の視聴は無駄ではなかった。ただ、それが本当に真剣に、一点の曇りもない決意が為す行動かどうかの結論は、最後まで見届けなければ分からない。残すは最終回。視聴後、何を思うか、楽しみ半分不安半分である。

*1:心理が理解できる、という意味ではなく、心理が浮き彫りになるという意味で

*2:耕四郎と同じ次元の世界に