じゅじゅるさん。2

じゅじゅるのへたれ感想ブログ

アニメビジエンスを読んで 〜数字という生き物について〜

アニメ業界誌「アニメビジエンス」の「フォローで試し読みキャンペーン」に当選しまして、2号と6号をプレゼントしていただきました。
A4で上質な紙質。本文はオールカラーで、著名イラストレーターによる、名作アニメをモチーフとした表紙絵が強く目に焼き付きます。渾身の筆致で描かれた表紙に魅入られて購入する人も多いのではないでしょうか。それほどの特別感を覚える表紙です。山田章博先生のデビルマン、最高。
しかし、眉目麗しい絵的なサービスはほぼ表紙で終了。そう、これは業界誌。
それも、アニメ業界唯一の業界誌なんだそうです。



いわゆるアニメ誌のようにピンナップや設定資料、最新アニメ情報が載っているわけではなく、業界のトピックや業界全体の展望について興味がある人用。業界誌だからね。
アニメにまつわる様々なデータとその検証、それらを踏まえた現在のビジネス展開と、未来への展望を探る。
今回はそんなアニメビジエンスを読んだ感想を書きたいと思います。
ちなみに今回、2号と6号を希望したのは*1、アニメ業界で現在注目を集めている聖地巡礼ビジネスと、音楽業界のように関連する他業界との今後のあり方について興味があったから。



つい最近、SHIROBAKOという、アニメ制作現場を舞台にしたアニメが人気を博しました。その前後から制作の現場について興味を持つアニメファンが増え、専門用語や部署の役割について広く知られるようになりつつあります。
アニメビジエンスはアニメ業界、その中でも現場の外周で活躍する人々の仕事を追います。アニメの企画にどのようなラインを引くのか、現場で作り上げた作品にどのような価値を付加するのか。より多くの人々を巻き込み、作品の魅力を伝えるために活躍する人たちは今何を考え、活動しているのか。現場の魅力の一部を除き見た私は、その周辺の人たちの思惑も知りたくなったのです。



聖地巡礼特集では、聖地巡礼の現在を紹介しつつ、アニメ制作側と地域の思惑が完全に一致しているわけではないことが強調されています。
テレビアニメは1クール数ヶ月で終わる作品が多くなりましたが、アニメ制作側は出来るだけコンテンツの延命を計りたい。その一方で、プロデューサーには次の仕事も控えているわけで、いつまでもひとつの作品に注力は出来ません。そんなアニメ制作側と、長期に渡る経済効果を狙いたい地方との仲介役としてコーディネーターが必要となってくる。聖地巡礼で成功した作品では必ずといっていいほどそのような人物が活躍しているそうです。これからの聖地巡礼ビジネスはそういった人材の育成がかかせなくなるといった指摘には頷くものがあったし、業界誌ならではの視点でしょう。



経済効果○億円、と数字だけ見せられてもピンと来ませんが、アニメビジエンスはその数字に至るヒントをいくつか授けてくれます。「これをやれば間違いない」といったヒットの法則はないのかもしれません。過去のヒット作から学べることは多いでしょうが、ヒットの要因とされる要素をトレースしてもヒット作が生まれるとは限りません。
地域振興として時に「失敗例」として名前を挙げられる「輪廻のラグランジェ」について、アニメビジエンスはアニメ制作側と地方の関係性の深さに言及。お互いに「何が出来て何が出来ないか」を共有・理解し、地域の人材育成を促し、鴨川らしいビジネス展開を呼び込むことに成功。例えば鴨川の情報紙「KamoZin」や鴨川エナジーがそれに当たります。これらの展開は数字を見つめるだけでは発見できない「生」の動き。輪廻のラグランジェの地域振興は、世代や地域を横断し、さらなる地域活性へ向けた持続力を育みます。本格的に花開くのはむしろこれからなのかも知れませんね。



その他にもデータ特集では年間ビデオグラム売り上げの総括や歴代アニソンの系列の分析など、データから流れを読む記事なども収録されており、大変読み応えがあります。
数字には理由があり、その意味合いも時代や視点によって変わっていきます。



アニメビジエンスを読んで、数字は文字列ではなくつねに胎動する生き物だと痛感しました。時代は刻一刻と移り変わり、ただ漫然と作品を世に送り出すのではなく、今の流れを読み、次の流れを作る試みが常に求められています。その結果が数字として現れるということを、今回再確認しました。
これから見るアニメの風景が、少し違って見えるかもしれませんね。

*1:なんと希望の号が二冊当たる企画なのだ