じゅじゅるさん。2

じゅじゅるのへたれ感想ブログ

チリンの鈴

 昨年12月にBSで放映されたもの。原作やなせたかしのサンリオアニメ。
 ある羊の牧場に狼ウォーが強襲、その際殺された母の仇を討つべく立ち上がる羊の子・チリンの狂気と愛にまみれた物語。
 導入部分が底抜けに明るいので、母が死んだあとの展開とのギャップが大きく、めまいを覚えてしまう。モグラと追いかけっこしていた小さいチリンがまさか、と度肝を抜かされる展開が待っていました。母親の死を機に画面から光が消えていきます。中盤から後半は常に暗い色調で、チリンの病んだ精神を表しているかのよう。
 特筆すべきは青年チリンの声。ヒーローでもドジでまぬけでもない、ニュートラルな青年の声の神谷明ってのは今でも新鮮。後半は名セリフも多く、ダークヒーローものを連想してしまうほど。
 仇であるウォーに弟子入りし、羊でもなく、狼でもない異形の姿に成長したチリンはそびえる山脈を前に我が栄光を語ります。

見ろ、ウォー。この森も、山も草原も!すべて僕たちふたりのものだ。

 このセリフが特にキマッていました。チリンにとってウォーは母の敵であると同時に、父に勝る存在になっていました。
 癒し系アニメから転調して復習劇にとってかわり、最後は復讐の虚しさと帰る場所を無くした喪失感に彩られ、悲しい結末を迎えます。
 母を殺した父を殺し、帰る場所も失った。ただ、吹雪に紛れて悲しく鈴の音が鳴るばかり。この無常感がたまらん。
 作画の面では小さいチリンのころころした動き、母が殺された時の黒地に赤のエフェクト、チリンが異形のものへと成長していく際の煙だとかが強烈に目に焼きつきました。エフェクトかっこいいんだわこのアニメ。特にチリンが成長するシーンはこの作品のキモといえる箇所で、気合が入っているのも十分頷けます。
 弱いものは何もしていなくても消されてしまう世界。この世界をウォーは地獄と呼びました。弱い自分からの脱却を図ったチリンは地獄の死者となり、強さと引き換えに故郷を失うのです。
 強くなるってなんだろう。残酷な物語なんだけど、子供にこそ見てもらいたいアニメかもしれません。
 あと、ウォーがめたくたかっこいい。基本は真っ黒にべた塗りなんだけど、左目の赤い傷がアクセントになっていて言動ともにダークヒーローしててたまりません。大きなお友達も機会があったらぜひ。