じゅじゅるさん。2

じゅじゅるのへたれ感想ブログ

STAR DRIVER 輝きのタクト 第一話 ―「やりたいこと」と「やるべきこと」について―

 完全新作のオリジナルアニメが枯渇して云々と騒がれる昨今、日5に颯爽と現れたオリジナルロボットアニメ。それが「STAR DRIVER 輝きのタクト」。
 いかにも「ネタにしてくれ」と言わんばかりのセリフ連発でイロモノ扱いされてそうだけど、案外まともに「第一話」してる。登場人物の紹介、世界観の提示、またロボット起動から初戦闘終了までやってしまっている。が、その一方で異色なのは、ロボットもののガワなのにロボットものである必然性が低いこと。一話の戦闘はまるきり「決闘」であるから、それがしたいのなら鋼の巨体に乗らなくても表現できる。ロボットものは「相手が怪獣だから」「兵器の極まった先がロボットだったから」ロボアニメなんだけれど、そういった今までのロボットアニメのセオリーに則ると、「ロボットじゃなきゃいけない理由」がいまいち見えてこない。じゃあ視点を変えたらどうだろう。危機的状況だからロボなんです、ではない視点。例えば、タクト視点。
 そうすると違うものが見えてきた。
 この作品は「ロボットアニメと魔法少女アニメの混血児」説。ロボットに乗って戦うんだから「ロボットもの」なのでしょうが、一方で「魔法少女アニメ」としての一面が強く感じられる。それもセーラームーン以前の。だって、タクトさんノリノリじゃん。葛藤なんて見せないでタウバーンに搭乗して「颯爽登場!」するんだぜ。しかもきらびやかに変身したりする。何故彼は「颯爽登場!」できるのか。
 それに関連した、引っかかる点がある。タクトの言う「やりたいこととやるべきこと」というやつ。
 ある日突然、主人公の「やりたいこと」と「やるべきこと」が合致するロボットアニメってそんなにない。あったとしても、それらの主人公はすでにロボット操縦のプロフェッショナルだったりして(最近ならガンダムOOの刹那)、タクトのような純然たる素人が喜び勇んでロボに乗るケースは珍しい。リアル系ならなおさら(ああ、ラインバレルがあるか)。ロボットものだと、ロボに乗る環境を周りが作るように設定される。戦争状態に巻き込まれ、主人公が乗らなければならない状態まで追い込んでいく。しかしそんな状況下でも葛藤は生じる。ロボットに乗ることで人を殺したり殺されたりする世界に飛び込むわけだから。やりたいことがやるべきことに昇華されるか、やるしかないのでやりたいこと*1を放棄するか。そういった話になる。
 でも、魔法少女ものだとそうでもなくて、夢見る少女のところにマスコットが登場して「魔法少女に変身して」と頼むと、一も二もなく了承し変身するケースが多々見受けられる。彼女らには変身願望が元々あって、マスコットの要請によって「やりたいこと」と「やるべきこと」が合致するわけだから断るって選択肢がないわけで。
 命を奪い合う場に加担する葛藤が存在せず、願望が強く前に出ている。それがタクトという主人公。
 魔法少女ものの多くに存在する「変身願望」をタクトが抱えていて、それをかなえてくれるマスコットキャラがタウバーンなのだとしたら、わりとすんなり納得できるかな。タウバーンはタクトの「変身後の姿」であり、同時にお供のマスコットである、なんていう。*2タウバーンが「変身後のタクト」とするならば、「魔法少女もの」としてはノー訓練・ノー葛藤でスパッと「変身」できても違和感は生まれない。タウバーンは他のサイバディと違い、パイロットと動きがシンクロするタイプのロボット。感覚が人間のそれを逸脱し、タウバーンというロボットと融合したとするなら、自分が巨大なロボットに「変身」したかのような錯覚を覚えるんではなかろうか。「ロボット」という「魔法少女」に、タクトは「変身」したのだ。
 で。タクトのセリフに「弱き者を助けるのが家訓」というものがあったりと、祖父から受け継いだと思われる「ヒーロー観」がいくつか提示されている。それの示すところは「やりたいこと」ではなくて、「やるべきこと」。
 だとすると、一種の「魔法少女もの」のような変身願望を持ちつつ、「ロボットもの」のようなヒーロー観*3をも持ち合わせた天上ウテナあたりがタクトのメンタリティに近い……のかもしれない。*4しかし、彼は男であるし、かくありたいと願っているから、ウテナの抱える矛盾した感情を抱えてない分はシンプルな性格、とは言えるかもしれない。
 タクトは変身願望を叶え、さらに弱き者を助ける力を得た。ロボットアニメじゃなきゃいけない理由は、タクトの夢と使命が合致した結果にあるのかもね。つまりタクトが世界を形作っている。10年代の、新たなるロボットアニメの幕開けかもしれない。要注目作。

*1:日常を謳歌したい、というささやかな願いだったりがその多く

*2:ただ、セーラームーン以前の魔法少女ものってご近所密着型が多くて、ロボットアニメの多くが立ち会う「世界、もしくは自分の仲間たちの危機」と直面するわけでもない(場合が多い)から葛藤が起こらない、というケースも多々。

*3:ロボットといってもリアルロボットよりスーパーロボットの主人公的な

*4:ただ、ウテナさんの変身願望は性別を超えているので、安易に同一には語れない