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長井龍雪監督とロボットエモーション 〜長井龍雪監督ロボットの系譜から「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」への期待〜

新作長編映画心が叫びたがってるんだ。」の公開を控えている長井龍雪監督。
長井監督作品の特徴は「心の揺れを大胆かつ繊細に描く」ところにあると思っています。
そんなところが、とても好きな監督のひとりです。
思春期の少年少女の青春もののイメージが強い監督ですが、その時々に登場する「ロボット」は非常にダイナミックに登場人物のエモーションを代弁します。




そんな長井龍雪監督が、なんとガンダムを手掛ける、というビッグニュースが本日届きました。
その名も「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」。
僕は初見で、主役MSのガンダムバルバトスの面構えから非常に強い怒りの感情を受け取ったんですね。
憤怒。庇のように突っ張った角の先端は眉根を寄せているようにも見えるし、彫りの深い眼は威圧的です。
本来感情の宿らないMSに、ノーマルな状態で、ここまでの怒りを前面に押し出しすフェイスデザインにした意図とはどのようなものでしょう。
ロボットが感情を持っているかのように描写する演出は珍しくありません。
モノアイからオイルの涙を流させたり、能面のような顔に影が走るようなアングルにして不気味さを演出してみせたり。
それはその時々の演出家の裁量で「ロボットに感情が宿ったかのように見える」もしくは「搭乗者の心情をロボットが代弁した」ように描かれてきたものですが、このガンダムバルバトスはデザインの段階で憤怒の表情を顔にまとわりつかせているように見えます。ノーマル時から怒っている。
その射抜くような眼光に、私は恐怖すら覚えました。
これは虐げ続けた大人達への反逆の意志が乗り移ったものなのか。そして、その怒りは持続するものなのか。
クーデターを起こした彼ら少年兵の怒りの矛先が宙に浮いた時、バルバトスは憤怒の表情を保っていられるのか。
ガンダムの面構えだけでも、色んな妄想が出来ちゃいますね。



このように、長井監督は初アニメ監督作品であるアイドルマスター XENOGLOSSIA」以降の作品でも、要所要所でロボットを配置し、搭乗者・操縦者のエモーションをロボットに託します。
※7月16日追記
アイドルマスター XENOGLOSSIA」は初監督作品ではない、とのご指摘がありました。長井龍雪監督の初監督作品は「ハチミツとクローバーII」でした。訂正しておわびします。



例えば、青春SFアニメ「あの夏で待ってる」最終回では、寡黙で謎の多い檸檬先輩の変わりに、ハイエースに手足が生えたロボが荒ぶる心の裡を代弁する、というシーンがあります。
位置的にジョジョのスタンド発現のようにも見えますね。ハイエースがオラオラとか叫びそう。




超能力者の異能バトルと超能力に振り回される人々の有り様を描いた「とある科学の超電磁砲」でも終盤、黒幕のテレスティーナがロボットに搭乗して御坂美琴らに襲いかかります。
大原さやかさんのドスの利いた雄叫びに乗せて、嵐のようなロケットパンチが美琴を襲います。
美琴のレールガンの弱点――射程に明確な限りがある――を事前に見抜きながら、自身の主力兵装が「有線式ロケットパンチ(撃ったら使い捨て)」って、自信の現れなのか、舐め切ってるだけなのか。
テレスティーナというひとの、科学者としての才覚とそれに相反する傲岸不遜さが形をなしたようなロボットデザインです。あと、四連式ロケットパンチってすてきね。
このテレスティーナロボの野暮ったいデザイン、パトレイバーで例えると、ラスボスがグリフォンや零式じゃなくて酒飲んでやけっぱちになった親父が乗る作業用レイバー(安全第一とか書いてある)、みたいなとんちきな絵面になってんのがすげえ好きなんですよ。テレスティーナの化けの皮が剥がれ、言葉遣いが荒れまくってるのもそのとんちきさに拍車をかけてますね。




その続編にあたる「とある科学の超電磁砲S」でも、やはり最終回に婚后航空の超技術力で作られた巨大ロボ「エカテリーナ二世号改」が登場します。
白地に青が眩しいボディと、極度に発達した碗部が非常に雄々しいです。ヒーロー的なカラーリングに反して、一期と同じく、どこか土木・建築作業機械を思わせるアイテムが散りばめられていてちょっとちぐはぐな印象を与えているのも、搭乗する佐天涙子さんのヒーロー願望の強さと、泥臭く生きていくしかない、今の彼女の心境を見事に現している、ように見えなくもありません。
そんな彼女が青空に放つパイルバンカーはひっじょうに勇ましく、無力さに苛まれ続けた彼女のヒーロー願望が一気に昇華された瞬間でもあります。




これら長井監督作品群の「ロボットの挙動で感情を表現してみせる」ギミックの大元は2007年作「アイドルマスター XENOGLOSSIA」から見られたものです。
ただひとつ違うのは、心情の吐露がロボット側から発せられる点――感情を持ってるかも知れないロボットから搭乗者へのささやかながらも実に情熱的なアプローチ――です。
このアニメは、月が粉々に砕けた世界で隕石落下を防ぐ手段が「ロボットでぶん殴る」、なんて奇想天外な発想だったもんで、当時とても心が躍ったものです。逞しく主張する巨大アームがとても雄々しい。
人格を宿した(と言われる)ロボット「iDOL(アイドル)」インベルが、アイドルマスターと呼ばれる搭乗者・天海春香に次第に恋心を抱くようになります。
iDOLのインベルは言葉は発しませんが、わずかな挙動で描かれる心情描写がとても秀逸です。上記作品群とは違い、人の代弁者ではありませんが、ロボットの挙動にエモーションを籠める手法はこの頃から顕著だったと言えるでしょう。



さて、ここまで長井龍雪監督作品に登場するロボットについておさらいしてみました。
ロボットが搭乗者や操縦者の想いを代弁する――まるで自分の身体の延長のように。
そうした手法を用いるロボットアニメは沢山あります。
が、ここまで振り返ってもう一度最新作「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」のガンダムバルバトスを拝見すると、常時憤怒の顔にはやはり鬼気迫るものを相当に感じます。バルバトスに託した、彼らの蓄積された怒りの感情がどこまで続くのか。彼らの幼い出で立ちを見ると、ある日突然ぷつん、と怒りが持続できなくなる日が来るんじゃないか、なんて邪推してしまうんです。彼らの起こすクーデターの規模とその最終目標が達成に向かえば、緊張の糸が切れる日もそう遠くはないでしょう。その時、彼らに、そして僕らにバルバトスはどのような表情を見せるのか。



長井監督が脈々と描き続けてきたロボットエモーションは「戦争」という非日常な場と「裏切り」という感情のブーストを経て、より苛烈な感情の発露をバルバトスに託す事になるでしょう。
アイドルマスター XENOGLOSSIA」から各作品を経て受け継がれ続けてきた、ロボットという身体の延長から発せられる感情の発露。
鋼の肉体は次はどんな衝動を糧に、戦場を跳躍するのか。
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」。長井監督の真骨頂であり新機軸になりそうです。



どうでもいいおまけ話
とある科学の超電磁砲」のロボットとのチェイスシーンの元ネタはメガドライブ魂斗羅 ザ・ハードコア」か「ガンスターヒーローズ」の強制スクロール面だよ説が一部では上がっているんですがどうでしょうか。ないでしょうか。